Vol.97.
皆さま、こんばんは。さとう歯科クリニック院長の佐藤公麿です。
今回は、「前歯の見た目を良くしたい」という主訴で来院された50代女性の症例をご紹介いたします。
前歯はお顔の印象を大きく左右する重要なパーツです。特に上顎の前歯は、笑った時や会話中に最も目立つ部分であり、審美性の高い治療が求められます。今回の患者様も、左上中切歯(左上1番)の歯根破折により、歯肉の退縮と歯冠の不調和が目立っている状態でした。
初診時の状態
初診時の口腔内写真とレントゲンから、左上1番の歯根破折が確認されました。歯肉が退縮し、歯冠の金属色が透けて見える状態で、周囲の天然歯との調和も失われていました。患者様は、「前歯の色や形、見た目全体が気になる」と強い不満をお持ちでした。
治療計画
この症例では、以下のような段階的治療を行うことにしました。
-
左上1番の抜歯
-
歯肉退縮部への結合組織移植術(歯槽堤増大術)
-
歯肉の治癒を待った後、補綴装置(レジン前装ブリッジ)を装着
抜歯によって歯槽骨が吸収し、歯肉が凹むことが予想されたため、審美性の回復には軟組織のボリュームを増やす「歯槽堤増大術」が重要と判断しました。
歯肉移植手術の詳細
手術では、患者様自身の口蓋(上顎の内側)から「結合組織移植片」を採取し、歯肉の凹みが目立つ部位に移植しました。移植片は精密に調整され、術後の審美的な歯肉形態を考慮して縫合しました。
治癒期間と補綴装置の装着
術後は歯肉の成熟を約6ヶ月かけてじっくり観察し、移植組織が安定した段階で補綴装置(レジン前装ブリッジ)を装着しました。
術後3年の写真では、歯肉は安定しており、退縮や炎症もなく良好な状態が保たれており、患者様にも大変満足いただいております。
まとめ
この症例は、単なる被せ物のやりかえではなく、「軟組織マネジメント(歯肉のボリューム・形態を整える処置)」を丁寧に行ったことで、長期的に安定した見た目の回復を得ることができました。
前歯の審美治療では、歯だけでなく歯肉の形態とバランスが非常に重要です。歯肉の退縮や凹みがある場合、補綴装置だけでは限界があり、今回のような歯槽堤増大術や結合組織移植術が有効となります。
「前歯の見た目が気になる」とお悩みの方へ
「歯が黒く見える」「歯と歯の間に隙間がある」「前歯のブリッジが不自然」といったお悩みは、歯肉のボリューム不足が原因かもしれません。
当院では、歯周形成外科やマイクロスコープを用いた精密治療に力を入れており、審美性と機能性の両立を目指した治療をご提案しています。
お気軽にご相談ください。
【治療についての詳細】
担当医:佐藤公麿
治療期間:約8ヶ月
※結合組織移植後、治癒傾向を慎重に確認するために経過観察期間を長めに設けました。
費用:結合組織移植術110,000円(税込)
抜歯や補綴装置は保険適応の3割負担
【リスク・副作用について】
・術後に一時的な痛みや腫れ、出血を伴う可能性があります。
・口蓋部(結合組織採取部位)の違和感がしばらく続くことがあります。
・術後に過度なブラッシングや強い機械的刺激が加わると、再度歯肉退縮を起こすリスクがありますので、適切なブラッシング指導のもとメインテナンスが重要です。
※本症例の写真および画像は、患者様ご本人の同意を得た上で掲載しております。