Vol.121
皆さま、こんばんは。岡山市南区妹尾のさとう歯科クリニック院長の佐藤公麿です。
愛媛県から岡山県の「さとう歯科クリニック」までは、瀬戸内海を渡る少々長い道のりです。
それだけの距離を移動してでも、「自分の歯を残したい」「もう一度、自分の歯でしっかりと噛みたい」という強い想いを持った50代女性の患者様が当院を訪れました。
主訴は、「左上第一大臼歯(親知らずから数えて3番目の大きな奥歯)の欠損」。
一般的にはインプラントやブリッジ、入れ歯が検討されるケースですが、患者様のご希望は「左上親知らずを用いた、自家歯牙移植(じかしがいしょく)」でした。
今回は、遠方から通院されたこの患者様の、手術から2年が経過し安定している症例を、実際のレントゲンや口腔内写真を交えて詳しくご紹介します。
1. 術前診断:失われた大臼歯と、ドナーとなる親知らず
自家歯牙移植を成功させるためには、いくつかの厳格な条件をクリアする必要があります。
・移植する場所(受容側)に十分な骨の幅と高さがあること
・移植する歯(ドナー歯)の根の形態が、移植先に適合しやすいこと
・ドナー歯を傷つけずに抜歯できること
左上の奥歯(第一大臼歯)が消失していますが、幸いにもそのさらに奥(画像向かって右上の赤丸部分)には、しっかりと形が残った親知らずが眠っていました。
この親知らずを欠損部へと「引っ越し」させる治療を計画しました。
2. 3Dデジタル技術を用いた、低侵襲な移植手術へのアプローチ
移植手術において、最も重要なのは「ドナー歯の歯根膜(しこんまく)」をいかに健康な状態で維持するかにあります。
歯根膜とは、歯と骨を繋ぐクッションのような繊維組織で、これが生きていることで、移植した歯が周囲の骨と結合し、自分の歯としての感覚を取り戻すことができます。
しかし、抜歯したドナー歯を移植床(植える穴)に何度も合わせて調整していると、歯根膜が擦れて傷つき、予後が悪くなってしまいます。
そこで当院では、CBCT(歯科用3DデジタルCT)データと3Dプリンターを駆使した最新のアプローチを行っています。
手術当日の流れと、実際の口腔内写真です。

あらかじめCTデータから、ドナー歯(親知らず)と全く同形状の「3Dレプリカ歯」を3Dプリンターで実寸作成しておきます。
手術時には、本物の親知らずを抜く前に、まずこの白いレプリカ歯を使って移植床のサイズや向きをぴったりに調整(試適)します。
これにより、本物の歯を抜いてから移植床に収まるまでの時間を極限まで短縮(数分以内)することができ、歯根膜へのダメージを最小限に抑えることに成功しました。
3. 術後の経過と、歯を長持ちさせるための「精密根管治療」
移植された歯は、新しい場所で骨と結合を始めます。
しかし、大人の完成した歯を移植する場合、歯の神経(歯髄)は一度断絶してしまうため、そのままにしておくと中で神経が腐り、感染を起こしてしまいます。
そのため、移植直後の固定期間を経て、しっかりと根の治療(根管治療)を行う必要があります。
固定を外し、次のステップへ進む際の状態です。
当院では、マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)を用いたラバーダム防湿下での精密根管治療を行います。
細菌を一切入れない環境で根の先まで緊密に薬を詰めた後、歯を削る量を最小限に抑えるため、治療用の穴を「ダイレクトボンディング(高精度樹脂接着)」にて精密に封鎖しました。
これにより、余分な歯質を削ることなく、天然歯に近い美しさと強度を保つことができます。
4. 2年予後:瀬戸内海を越えた治療の結果
さて、手術から2年が経過した現在、患者様のお口の中と骨の状態はどうなっているでしょうか。
患者さまのプラークコントロールに助けて頂き、非常に素晴らしい経過を得ることができました。

2年後のレントゲン写真(右下)をご覧いただくと、移植された歯の周囲にしっかりと新しい骨(白い影)が詰まってきているのが分かります。
歯の根が溶けてしまう「置換性吸収」や、不自然な透過像(病変)は一切見られず、周囲の天然歯と完全に調和しています。
患者様からも、「遠くから通った甲斐がありました。今では移植したことを忘れるくらい、自分の歯として違和感なく何でも美味しく噛めています」という大変嬉しいお言葉をいただきました。
5. まとめ:50代からの自家歯牙移植という選択肢
インプラントは非常に優れた治療法であり、当院でも数多く行っています。
しかし、インプラントは「人工物」であり、歯根膜がありません。
一方で、自家歯牙移植は「天然の歯根膜」を伴った自身の組織です。
噛んだときのクッション性や、噛み応えを感じるセンサー(固有受傷覚)が残るため、脳にとっても「自分の歯で噛んでいる」という自然な感覚を維持できます。
「50代だから移植は定着しにくいのでは?」と不安に思われる方もいらっしゃいますが、インプラント治療と同様に、徹底した事前診断(CBCT)、3Dレプリカを用いた術期の短縮、そしてマイクロスコープによる精密な根管治療を組み合わせることで、年齢に関わらず高い成功率を収めることが可能です。
不要と思われがちな「親知らず」は、将来のあなたを救う「最高の予備パーツ」になるかもしれません。
抜歯を宣告された方、奥歯を失ってインプラントしか選択肢がないと言われた方は、ぜひ一度、岡山県の「さとう歯科クリニック」までご相談ください。
遠方からの患者様も含め、お一人おひとりの「自分の歯を残したい」という想いに、最先端のデジタル技術と精密技術でお応えいたします。
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【担当医】
佐藤公麿
【治療期間】
自家歯牙移植手術から精密根管治療、ダイレクトボンディングで修復するまで約2ヶ月
【治療内容】
左上第一大臼歯部に左上智歯(親知らず)を自家歯牙移植
【費用】
自由診療 約20-40万円
【リスク・副作用】
手術後の出血、腫脹などの合併症を伴うリスクがあります。また、自家歯牙移植後に歯が生着しないケースも稀にあります。
術後に歯根吸収やアンキローシスを起こすことがあります。
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(臨床写真の掲載については、患者さまに掲出の同意を得ております。)




