Vol.111
みなさま、こんばんは。岡山市南区妹尾のさとう歯科クリニック、院長の佐藤公麿です。
本日は、60代女性の方に行った歯周組織再生療法の症例をご紹介します。
この方は「右下の奥歯の歯肉から出血する」とのことで、検査の結果、右下6番(第一大臼歯)に中等度〜高度の垂直性骨欠損を認めました。
骨の吸収が進行しており、歯の動揺も軽度に見られたため、歯周組織再生療法による改善を目指す方針としました。
■ 診断と治療計画
診断は慢性歯周炎による垂直性骨欠損。
歯周基本治療後もポケット残存が6mmと深く、レントゲン上でも明確な骨吸収像を認めました。
再生療法の目的は、
-
骨欠損部の新生骨再生
-
歯根膜および歯槽骨の再付着
-
歯の保存と機能回復
です。
今回は、**低侵襲性(MIST:Minimally Invasive Surgical Technique)**を重視し、歯間乳頭を温存した最小限の切開でアプローチしました。
■ 手術の流れ
-
MISTによる切開・剥離
歯肉の損傷を最小限にするため、歯肉縁直下に小さな切開を入れ、顕微鏡下で丁寧に剥離しました。
歯間乳頭は残し、術後の審美性と治癒の早さを確保します。
-
エルビウムヤグレーザーによる肉芽除去と歯石除去
根面の歯石と骨欠損部の感染性肉芽を、Er:YAGレーザーを用いて除去。
レーザーは水冷下で選択的に軟組織を蒸散でき、骨面や歯根面を傷つけずにデブライドメントできるのが大きな利点です。
また殺菌効果も高く、創面の血液供給を保ちながらクリーンな環境を作り出せます。
-
エムドゲイン(Emdogain)塗布
歯根面を条件づけした後、エムドゲインゲルを塗布。
これは歯根膜由来細胞の分化を促進し、新しい歯槽骨・セメント質・歯根膜の再生を導く生物学的製剤です。
-
サイトランス(Cytoplast)による骨補填材充填
欠損形態が垂直性であったため、補助的にβ-TCP(リン酸三カルシウム)骨補填材を併用しました。
これにより、再生スペースを維持し、エムドゲインの効果を安定化させます。
骨補填材は吸収性で、最終的には新生骨に置き換わります。
-
縫合と術後管理
乳頭を温存した状態で、非吸収性糸により緊密に縫合。
術後は抗菌薬・消炎鎮痛剤を短期間使用しました。
■ 経過と結果
術後6ヶ月の時点で、歯周ポケットは6mm → 3mmへ改善。
X線写真検査上でも、骨吸収部に明らかな骨新生像を確認できました(下図参照)。
臨床的にも動揺は消失し、咬合機能の安定が得られています。
患者様も「歯がしっかりして噛めるようになった」と喜ばれました。
■ 考察
今回の症例の成功要因としては、
-
MISTによる低侵襲な切開で創面の安定を確保したこと
-
Er:YAGレーザーによる精密かつ安全な肉芽除去
-
エムドゲインとサイトランスの併用による生物学的・物理的再生環境の最適化
が挙げられます。
従来の外科法に比べ、侵襲を抑えつつ高い再生効果を期待できるのがMISTの特徴です。
また、エルビウムヤグレーザーの使用により、術後の疼痛や腫脹も少なく、患者様の負担軽減にもつながりました。
■ まとめ
歯周組織再生療法は、重度歯周炎でも歯を残す可能性を高める治療法です。
当院では、エビデンスに基づいた再生療法を行いながら、顕微鏡・レーザー・生体材料を組み合わせた先進的アプローチを取り入れています。
「歯を抜くしかない」と言われた方でも、再生療法で救えるケースは少なくありません。
気になる方は、ぜひ一度ご相談ください。
■治療費・担当医
-
治療内容:歯周組織再生療法(自由診療)
-
費用:110,000円(税込)
-
治療期間:約8ヶ月(歯周基本治療+歯周外科治療+経過観察)
-
担当医:佐藤公麿
- 全ての症例で同じ結果になるわけではなく、個人差があります。また、術後には出血や歯肉の腫脹が生じることがあります。