前歯の歯根破折に対して自家歯牙移植を行った症例紹介

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Vol.112

みなさま、こんばんは。さとう歯科クリニック院長の佐藤公麿です。

今回は、左上前歯の歯根破折に対して自家歯牙移植(Tooth Autotransplantation)を行い、良好な経過を得られた症例をご紹介します。

 

■ 症例概要

患者様は50歳代の女性。

以前に治療された左上中切歯(21)の違和感を主訴に来院されました。

精査を行ったところ、歯根の中央部に亀裂が入った歯根破折を認め、保存は困難な状態でした。

21のような前歯部の歯根破折は、審美的な影響が大きく、インプラントやブリッジといった補綴的治療が検討されることが多いですが、今回のケースでは、**ご自身の歯を別の部位に移植する「自家歯牙移植」**を選択しました。

 

■ 自家歯牙移植とは

自家歯牙移植とは、同じ患者様の口の中で、不要になった歯(多くは親知らずや矯正で抜歯予定の歯)を、失った部位に移植する方法です。

生体親和性が高く、歯根膜を活かすことで骨との生理的な結合が得られるという点が最大のメリットです。

今回の患者様は下顎前歯部に叢生(歯の重なり)があり、部分矯正で歯列を整える予定でした。

そのため、矯正治療の一環として**下顎前歯を1本抜歯し、スリーインサイザル(下顎前歯3本での咬合仕上げ)**を行う計画を立てました。

抜歯した下顎前歯(42)は歯根形態が整っており、左上1(21)のドナー歯として理想的な形態をしていたため、この歯を移植に使用することにしました。

 

■ 手術と経過

2022年5月に、破折歯の抜歯と同時にドナー歯(42)の移植を行いました。

移植床は歯根膜の損傷を最小限にするよう、慎重に形成しました。

移植直後には、軽い固定と抗生剤投与を行い、経過観察を続けました。

術後数週間で安定した骨性支持が得られ、歯肉の治癒も良好でした。

2022年10月には、下顎の部分矯正治療(LOT)も完了し、歯列の整った咬合関係が確立されました。

その後、定期的なメインテナンスを継続し、移植後3年(2025年10月)現在も良好な予後を確認しています。

歯肉の形態も自然で、審美的にも非常に満足度の高い結果となりました。

 

 

■ 本症例のポイント

  1. 破折歯の即時抜歯と同時移植により、骨吸収を最小限に抑制。

  2. 矯正治療との連携によって、抜歯歯を有効にドナー利用。

  3. 歯根膜の生理的再付着により、長期安定した咬合機能を獲得。

  4. インプラントを避けたい患者様にも有効な選択肢として提示可能。

 

自家歯牙移植は、成功のために「ドナー歯の形態」「移植床の精度」「歯根膜の保存」「固定方法」「タイミング」など、いくつもの要素が密接に関わる繊細な治療法です。

しかし、適応症を見極め、丁寧に行えば、天然歯ならではの感覚や審美性を保ちながら機能を再生できる非常に有用な治療法です。

 

■ まとめ

本症例のように、

「歯を失ったが、インプラント以外の方法で治したい」

「矯正で抜く歯を有効に活用したい」

といったご希望をお持ちの方にとって、自家歯牙移植は非常に魅力的な治療オプションです。

当院では、歯周組織再生療法やマイクロスコープ治療などの精密歯科治療と組み合わせることで、できるだけ自分の歯で咬むことを目指す治療を行っています。

お気軽にご相談ください。

 

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【担当医】

佐藤公麿

 

【治療期間】

約半年間

 

【費用】

自由診療

自家歯牙移植+補綴装置 247,500円(税込)

下顎前歯の部分矯正 198,000円(税込)

 

【リスク・副作用】

自家歯牙移植は、ご自身の歯を活用できる有効な治療法ですが、以下のようなリスク・副作用が生じる場合があります。
•移植後に歯根膜が生着せず、歯が動揺・吸収することがあります。
•移植部位の骨や歯肉の治癒経過によっては、再治療や補綴処置が必要となる場合があります。
•術後に一時的な腫れ・痛み・違和感が出ることがあります。
•感染や噛み合わせの影響により、移植歯の寿命が短くなる場合もあります。
適切な症例選択と術後のメインテナンスにより、良好な経過が得られることが多い治療ですが、すべてのケースで成功が保証されるものではありません。

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(臨床写真の掲載については、患者さまに掲出の同意を得ております。)

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