マイクロスコープを用いた歯髄温存療法(VPT)の症例紹介

  • 虫歯治療

Vol.109

みなさま、こんばんは。さとう歯科クリニック院長の佐藤公麿です。

 

はじめに

「むし歯が深くまで進んでしまったら、神経を取らなければならない」——多くの患者さまがそう思われています。しかし、近年は**歯の神経をできるだけ残す「歯髄温存療法(Vital Pulp Therapy:VPT)」**が注目されています。

当院では、マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)を用いた精密な診断・処置により、歯の寿命を最大限延ばす治療を行っています。今回は、実際の症例をご紹介します。

 


症例の概要

 ・患者:20代女性

 ・主訴:奥歯の冷たいものにしみる症状

 ・診断:右上第二大臼歯可逆性歯髄炎、正常根尖組織

 ・治療方針:歯髄保存の可能性を検討し、マイクロスコープ下でのVPTを選択

 


治療の流れ

 

① う蝕の除去開始

マイクロスコープを用いて、むし歯部分のみを慎重に削除していきます。拡大視野により、健全歯質とむし歯の境界を明確に見分けられるのが大きな利点です。

 

② う蝕の完全除去

感染歯質を丁寧に取り除き、健全な部分を残します。これにより、歯の強度を保ちながら治療が可能です。

 

③ CR充填による隔壁形成

治療の精度を高めるため、コンポジットレジンを用いて一時的な壁を作り、作業スペースを安定させます。

 

④ 露髄部の確認と部分断髄

むし歯が深く、歯髄が一部露出していました。出血や組織の状態を観察し、保存可能と判断。部分断髄を行い、健全な神経を残す方針としました。

 

⑤ MTAセメントで覆髄

露髄部にはMTAセメントを充填。MTAは封鎖性が高く、歯髄の治癒や硬組織形成を促すことが報告されています。

 

⑥ CR充填による仮封

その上から再びコンポジットレジンで封鎖し、外部からの細菌感染を防ぎます。

 


治療前後の比較(レントゲン所見)

 

治療前のレントゲンでは、歯髄に近接した大きなむし歯が確認できます。

治療後はMTAとレジンによりしっかりと密閉され、歯髄の保護がなされている状態です。今後は定期的に経過を観察し、歯髄の生活反応や根尖部の変化をチェックしていきます。

(右上親知らずは抜歯、第一大臼歯はこの後同様に処置を行う予定です)


歯髄温存療法(VPT)のメリット

 ・歯の神経を残すことで歯の寿命を延ばせる

 ・神経があることで噛み心地や感覚が維持できる

 ・歯質を多く残せるため歯が割れにくい

 ・根管治療より低侵襲であり、再治療リスクを減らせる

 

一方で、炎症が強く進んでいる場合には適応できないケースもあります。そのため、適切な診断と治療のタイミングが重要です。

 


当院の取り組み

 

当院では、日本歯周病学会指導医の立場から、エビデンスに基づいた材料(MTAなど)とマイクロスコープによる精密治療を組み合わせ、歯髄温存の可能性を最大限に引き出しています。

「むし歯が深いから神経を取るしかない」と言われた方でも、歯髄保存の可能性が残されていることがあります。お気軽にご相談ください。


まとめ

 

バイタルパルプセラピー(VPT)は、歯の神経を残し、歯の寿命を延ばすための先進的な治療法です。

「できるだけ自分の歯を長持ちさせたい」という患者さまの希望に応える選択肢として、今後ますます広がっていく治療法といえるでしょう。

 

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【担当医】

佐藤公麿

【治療期間】

1日

【治療内容】

VPT

【費用】

33,000円

【リスク・副作用】

・術後疼痛を生じることがあります。

・全ての症例で歯髄を保存できるわけではありません。

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(臨床写真の掲載については、患者さまに掲出の同意を得ております。)

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