Vol.94
皆さま、こんばんは。さとう歯科クリニック院長の佐藤公麿です。
今回は、根未完成歯に対する「アペキシフィケーション」という特殊な治療法を行った症例をご紹介いたします。
■主訴:左下第二小臼歯部の歯ぐきの腫れが治らない
15歳の女性の患者様が「左下の歯ぐきが腫れてなかなか治らない」とのことで来院されました。
診察すると、左下の第二小臼歯の頬側歯肉に瘻孔(ろうこう)を認めました。レントゲン検査により、当該歯は根尖が開いたままの状態で、根未完成歯であることがわかりました。
さらに、歯髄の生活反応はなく、歯髄壊死による慢性根尖性歯周炎と診断されました。
■アペキシフィケーションが必要な理由
通常、歯は10代前半までに根の形成が完了しますが、外傷や虫歯、感染などによって歯髄が早期に壊死してしまうと、根の発育が止まってしまいます。
このように「根が未完成で、かつ歯髄がすでに失活している歯」は、従来の根管治療では封鎖が難しく、感染源が残りやすいため、特別な処置が必要になります。
そこで行われるのが、**アペキシフィケーション(apexification)**です。
■アペキシフィケーションとは?
アペキシフィケーションとは、
「根未完成歯に対して、根尖部に人工的に硬組織様の閉鎖(バリア)を作り、根管充填が可能な状態に誘導する治療」
です。
水酸化カルシウムを長期間貼薬する方法と、**MTA(Mineral Trioxide Aggregate)**という生体親和性の高い材料を用いて、1〜2回の処置で短期間に根尖閉鎖を達成できる方法があります。
水酸化カルシウムを長期間貼薬する方法は、保険適用の範囲内ですが、MTAを用いる方法は保険適用が認められておらず自費治療となります。
本症例では、保険適用の範囲内で治療をさせて頂きました。
■今回の治療の流れ
【1】診断
CTで根尖の状態を確認し、無菌的に根管内の感染組織を除去。
【2】水酸化カルシウム製剤によるアペキシフィケーション
根管内に水酸化カルシウム製剤を填入し、約半年間経過観察を行い、十分な封鎖性が得られたことを確認。
【3】最終的な根管充填と修復処置
根尖の封鎖をX線検査で確認後、ガッタパーチャで充填。咬合力に耐えるためにコンポジットレジンで充填。
■術後の経過
処置後1週間で瘻孔は自然閉鎖し、腫れも完全に消失。3年後のフォローアップでも良好な経過をたどっています。
■まとめ
このように、「根ができきっていない歯」が早期に感染・壊死してしまった場合、通常の治療だけでは不十分なケースがあります。
今回のようなアペキシフィケーションにより、根尖を閉鎖することで、抜歯を避けて歯を長く使うことが可能になります。
当院では、保険治療・自費治療に関わらず、こうした難症例にも対応可能な体制を整えています。
「歯ぐきの腫れが治らない」「過去に根の治療をしたが治らない」とお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。