Vol.92
みなさま、こんばんは。さとう歯科クリニック院長の佐藤公麿です。
今回は、70歳代女性の左上中切歯に生じたセメント質剥離に対し、歯周組織再生療法(リグロス、自家骨移植、Er:YAGレーザー補助骨再生療法)を用いて歯の保存を試みた症例をご紹介します。
歯周病の進行による骨吸収や歯の動揺は広く知られていますが、セメント質剥離という比較的稀な状態が急速に歯周ポケットの悪化を引き起こすこともあります。今回のケースでは、歯周組織再生療法により、歯の保存を試みました。
【症例紹介】
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患者:70代女性
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主訴:数ヶ月前から左上の前歯に違和感と腫れがある。
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定期的なメンテナンスを受けていただいており、これまで歯周ポケットは安定して2mm前後でしたが、ある日急に歯周ポケットが深くなりました。
検査の結果、左上中切歯にセメント質剥離を認め、歯周ポケットは6〜7mmに増大していました。
X線所見では限局的な垂直性骨欠損を伴っており、歯周組織再生療法の適応と判断しました。
【治療の流れ】
■ 歯周基本治療
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プラーク・歯石除去と感染管理を徹底
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セメント質剥離部位の確認と術前説明
■ フラップ手術によるアプローチ(顕微鏡下)
局所麻酔下にてフラップを開けたところ、セメント質の剥離片を明瞭に確認できました。
⇒ 剥離片を慎重に除去し、感染組織も同時に掻爬。
■ リグロス(歯周組織再生薬剤)の塗布(顕微鏡下)
歯根面を丁寧に処理したのち、**歯周組織再生剤「リグロス」**を塗布。
■ 自家骨移植(顕微鏡下)
欠損部には患者様自身の自家骨を採取・移植。
■ Er:YAGレーザーによる(Er-LBRT)(顕微鏡下)
移植した自家骨の表面にエルビウムヤグレーザー(Er:YAG)を照射し、血餅の安定化と細胞誘導性の向上を図りました。
■ 縫合(顕微鏡下)
歯科用顕微鏡を使用して縫合位置や結び目を確認しながら、フラップを歯冠側に固定縫合。
術後の歯肉の安定性を確保しました。
【考察】
本症例のようなセメント質剥離を契機とする限局的な重度歯周病変では、単なるスケーリングやSRPでは対応が難しく、歯周組織再生療法による積極的な介入が有効です。
Er:YAGレーザーを用いたEr-LBRT(Laser-assisted Bone Regeneration Therapy)は、従来の再生療法に比べて血餅の安定性と骨再生誘導に優れた成績を示しています。
今後、注意深く経過観察を行い、予後についてまた報告させて頂きたいと思います。
【まとめ】
セメント質剥離による急速な骨吸収に対し、
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剥離片の除去
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リグロスの活用
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自家骨移植
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Er:YAGレーザー補助再生療法(Er-LBRT)
という多角的な再生戦略を組み合わせることで、歯の保存と機能回復が可能となります。
歯周病が進行しても「抜歯しかない」と諦めず、再生療法という選択肢があることをぜひ知っていただきたいと思います。
お口の中で気になる変化がある方は、どうぞお気軽にご相談ください。